法人の新規農業参入の流れ・農地所有適格法人

以下は法人が農地所有適格法人を設立し、農地の所有権を取得して営農する場合の流れとなります。

法人新設を前提としていますが、休眠している会社の変更登記をして農地所有適格法人とする場合も流れは変わりません。活動している会社を利用する場合は注意が必要です。

既存の会社を農地所有適格法人化する際の注意点


 

営農計画策定

どの地域で営農するか、どのような作物をどの程度の量作るか、その為に必要な農地や人員、機材や施設、要する資金等を検討します。

基本的な方針が決まったら、今度は具体的な売上の見込みや、農作業のスケジュール、費用等を詰めていき、営農計画書にまとめます。

 

農地の確保

営農したい地域の、作付けする農産物に適した農地を探します。

当該地域に伝があるのがもっともよいのですが、それがなければ、情報公開を利用するなり、当該地域を訪れて協力を求めるなどの方法により農地を探します。

農地の探し方

農地を提供してくれる方が見つかったら、農地法の許可を得て買い受けたい旨を伝えます。

貸主の方の農業年金や相続税猶予措置等に影響が出ることがあるためです。

 

農地の現況も確認を

また、農地の実際の状態や権利状況も確認しておきます。

農地を貸してくれるという人が見つかったが、事実上農地として使うことができない状態だったというケースもあります。

この点を確認しないまま手続や農業委員会との協議を行うと、それまでの時間や費用が無駄になってしまう恐れがあります。

農地確保の目途がついたら、農地所有適格法人の設立事項の検討に入ります。

 

設立事項の検討

農地所有適格法人となりうる法人は、株式会社、合同会社、農事組合法人ですが、新規農業参入のケースでは株式会社が合同会社のいずれかを選択することとなります。

そして、農地所有適格法人の要件に適合するように、株主・社員、役員などの機関構成を決定します。

従来の業務に従事したまま設立する法人の役員となる方は、農作業への従事状況について注意が必要となります。

農地所有適格法人の要件

この際、栽培する作物についての一定の技能・経験を有する人を役員に入れることが望ましいです。

 

農業委員会との事前協議

営農計画や、法人の設立事項などを検討したら、法人設立の手続に着手する前に農業委員会と事前協議を行います。

権利取得を希望する農地や、営農計画、法人の機関構成などを呈示して協議します。

ここで農地の登記事項証明書からは見えない権利関係や制約が判明することがあります。その際にはそれらの点の是正を行います。

また、新規参入の場合で役員、関係者に農業経験者がいないような場合、経験者を役員等に入れる、一定期間の農業技術取得研修などを求められることもあります。

協議の結果、許可の見通しがついたら、法人の設立手続に着手します。

 

法人設立手続は許可の見通しがついてから

農業参入の形式的な手続の流れは、法人設立→農地法許可申請ではあります。

しかし、事前準備や農業委員会との協議の中で、当初予定していた事業目的、役員構成などが変わる可能性があります。

いきなり法人を設立してしまうと、改めて目的や役員などの変更登記が必要となり、余計な費用負担となる恐れがあります。

最悪、法人は設立したが農地は取得できなかったという事にもなりえます。

ですので、農地法の許可の見通しが立ってから、法人設立の手続に入ります。

すなわち、実際の手続の流れは、農地法許可→(許可が得られる見通しの構成の)法人設立となります。

 

法人設立

農業委員会との協議で法人の構成について十分検討したら、法人の設立事項を確定させ、法人の設立手続に入ります。

必要書類を収集作成し、法務局に法人設立登記の申請を行います。

農地所有適格法人といっても、それ自体は株式会社、合同会社なので、それらに沿った申請を行います。

 

参考 ※当事務所の業務別サイトへ移動します。

株式会社設立の手続

合同会社設立の手続

 

農地の売買契約の締結

法人設立の手続が完了したら、農地の権利提供者と売買契約を締結し、契約書も作成します。

農地の権利を取得するのは設立された法人であり、その権利取得について許可を受けるのも法人であるので、契約と許可申請は法人の設立後に行います。

なお、契約書については農業委員会で農地法許可用に作成した様式が用意されている場合があります。

この雛形は農地法許可の要件に沿うよう内容が定められているので、これを利用するのがスムーズとはいえますが、他面、当事者間の事情にまで配慮しているものではないので、必要があれば条項を追加したり変更したりします。

 

農地法許可申請

契約書を作成したら、その写しの他必要書類を揃えて、農地の権利取得のための許可申請を行います。農地所有適格法人の適格審査もこの中で行われます。

なお、農地法に関する各種申請の審査は月に1回となっています。

通常、締切日より、概ね3週間ほどで許可が出ます。

農地法の許可が出ると、法人が農地の所有権を取得し、営農開始が可能となります。

 

農地の名義変更

農地の所有権を取得する場合、農地の所有名義を法人へ変更する登記申請を行います(所有権移転登記)。

こちらの申請先は管轄の法務局です。

申請の際、農地法の許可証が必要となります。

また、法人の役員が農地の権利を法人に提供した場合、利益相反取引となるため、売買を承認する旨の株主総会議事録等を作成し、登記申請書に添付する必要があります。

名義変更の登記が完了するのは、書類に不備がなければ、申請からおよそ1週間~10日程度です。