法人化のメリット

農業も事業であることには変わりなく、法人化のメリット・デメリットも、他の業種と基本的に異なりません。

ただ、農地集約、六次産業化など様々な目的のため、他の業種にはない支援策が講じられています。

 

税金対策

売上が上がってくると、法人化で節税することができるようになってきます。

基準は一律ではありませんが、一般に、売上が1,000万円、あるいは、事業主の所得金額が400万円を超えた辺りからが法人化の目安とされています。もっとも、2000万円、3000万円というケースもあり、その法人の財務状況によるという事なのだと思われます。

従来は、この税金対策、節税が法人化する理由の多くを占めていましたが、近年では、この節税の他、以下の事業拡大などの理由による法人化が増えています。

 

事業の拡大

JA(農協)を通じて取引する場合、加入農家はある程度信用に関わらず一律に取引をすることができます。平等性が確保されている点で、JAを通じた取引の長所といえます。

ただ、その裏返しとして、一定の品質以上の農作物は同程度の買取価格になり、必ずしも品質に応じた販売価格になるとは限らないという面もあります。

そこで、JA以外の取引先を探そうとすると、取引先から法人化を求められる場合があります。

個人事業主だから信用がないというものではないのですが、新規の取引を行うについて、法人であることが条件の1つとなっていることがあります。

 

資金調達がしやすい

出資について

法人における資金調達の方法として、出資を受ける(返済義務がない)という方法があります。

農業法人も形式は株式会社、合同会社ですので、新株発行といった方法をとることができます。

この点、個人事業に比して第三者からの出資を受けやすいといえます。

なお、出資の方法として新株の発行を求められた場合、合同会社については株式会社への組織変更が必要となるので、設立する会社の種類の選択において、この点も考慮しておきます。

 

融資について

また、資金調達の方法として金融機関からの融資を受けるという方法もあります。

融資を受けられるかについては、法人形態であるか否かよりも事業計画により定まる面が大きいのが実際なのですが、法人である事が判断要素の1つとなることは否定できません。

 

人材の確保

近年、就農を希望する人が増えています。必ずしも自分が事業主になることを希望するわけではなく、農業を仕事にしたいという希望を持つ方々です。

就職を希望する人は、やはり安定性や福利厚生を求める傾向にあるため、法人化して福利厚生を充実することで有能な人材を確保しやすくなる面はあります。

 

事業承継の円滑化

個人事業の農業を承継させる場合、その都度、農地法の届出や許可申請、農地の名義変更登記などの手続が必要となり、時間や費用がかかります。

法人化して法人に農地の権利を帰属させておくと、法人内の手続で事業承継を行うことができるようになります。

例えば、個人農家のAさんが亡くなって子のBさんが承継する場合、Bさんへ農地の名義を変更する相続登記をし、農業委員会へ届け出るという手続が必要となります。

また、個人農家のCさんが承継人として相続人以外のDさんに農業を承継させようとすると、農地の権利移転につき農地法の許可申請をし、農地の名義変更登記を行う必要があります。

個人事業の場合、事業承継の度、上の手続が必要となります。

これに対し、法人化して、農業法人Eに農地の権利を帰属させておくと、農業法人について役員変更の手続をすれば足り、上の農地法の許可や届出、農地の名義変更登記は必要なくなります。

 

農業法人に対する各種支援制度

農業については、農地の集約、6次産業化、事業承継の円滑化による従事者の確保など、様々な目的のため、他の業種とは異なる支援策が講じられています。

例えば、スーパーL資金(農業者向け融資制度)について、法人は個人より貸付限度額が拡大されています。

他にも、従業員を雇用する法人への支援や、6次産業化のための交付金制度など様々な支援策があります。

 

デメリット

税に関する負担

会社の税務申告に関する事務は個人事業に比べて複雑で、その事務処理の負担は大きくなります。

その負担回避のために税理士と顧問契約を結ぶならば、そのための費用が必要となります。

また、個人事業主と異なり、法人の場合は赤字であっても、法人住民税のうち均等割り(7万円~)は納税する必要があります。

 

設立費用の負担

保有していた農地を個人から法人に名義変更(所有権移転登記)するか等により額は変わってきますが、法人化には決して低くない額の費用がかかります。

法人の設立のための定款認証代金、印紙代、登録免許税などの実費が、株式会社で約25万円、合同会社で約10万円が必要となります。

このほか会社の印鑑の作成代等がかかります。

また、農地の法人への名義変更(所有権移転登記)を行うならば、会社設立の登録免許税とは別個に、名義変更のための登録免許税がかかります。

この額は、農地の評価額の2%です。

法人化の手続を司法書士、行政書士に依頼するならば、その報酬も必要となります。