法人の新規農業参入の流れ
法人が新規に農業に参入する場合、その方式は諸々ありますが、以下は農地所有適格法人を設立して農地の所有権または利用権を取得する場合の流れとなります。
営農計画策定
どの地域で営農するか、どのような作物をどの程度の量作るか、その為に必要な農地や人員、機材や施設、要する資金を検討します。
基本的な方針が決まったら、今度は具体的な売上の見込みや、農作業のスケジュール、費用等を詰めていき、営農計画書にまとめます。
農地の確保
営農したい地域の、作付けする農産物に適した農地を探します。
当該地域に伝があるのがもっともよいのですが、それがなければ、情報公開を利用するなり、当該地域を訪れて協力を求めるなどの方法により農地を探します。
農地を提供してくれる方が見つかったら、農地法の許可を得て買い受け又は借り受けたい旨を伝えます。
貸主の方の農業年金や相続税猶予措置に影響が出ることがあるためです。
農地の状況も十分に確認を
また、農地の実際の状態や権利状況も確認しておきます。
農地を貸してくれるという人が見つかったが、事実上農地として使うことができない状態だったというケースもあります。
この点を確認しないまま手続や農業委員会との協議を行うと、それまでの時間や費用が無駄になってしまう恐れがあります。
農地法の許可要件の確認
農地が確保できたら、農地法の許可要件を確認します。
農地の権利を取得できるためには、原則として農地の面積が50アール(5000㎡。北海道は2ヘクタール)以上必要です(下限面積要件)。
ややこしいですが、農地所有適格法人の要件を満たすことも、許可要件の1つとなります。
参入方式の決定
農業参入の方式として、代表的なものとして以下が挙げられます。
・農地所有適格法人を設立して農地の所有権または利用権を取得する
・既存の法人を農地所有適格法人化して農地の所有権または利用権を取得
する
・従来の法人が一般法人のまま農地の利用権を取得する(貸借方式)
農地の所有権を取得したい場合は、農地所有適格法人を設立することとなります。
ここでは、農地所有適格法人を設立して農地の所有権または利用権を取得するものとします。
農地所有適格法人設立
農地所有適格法人の設立手続は、法人設立→行政庁(農業委員会)への農地所有適格法人の審査申請という流れとなります。
法人設立→行政庁への公益認定申請の流れをとる公益法人と手続が類似しますが、適格法人の審査は個別の農地の権利取得の許可申請の中で行われ、適格法人の審査のみを受けることはできない点で、やや変則的と言えます。
なお、実際の手続においては、法人設立の前に農業委員会と十分協議を行っておきます。
設立事項の検討
農地所有適格法人となりうる法人は、株式会社、合同会社、農事組合法人ですが、新規農業参入のケースでは株式会社が合同会社のいずれかを選択することとなります。
そして、農地所有適格法人の要件に適合するように、株主・社員、役員などの機関構成を決定します。
従来の業務に従事したまま設立する法人の役員となる方は、農作業への従事状況について注意が必要となります。
この際、できる限り、栽培する作物についての一定の技能・経験を有する人を役員に入れることが望ましいです。
農業委員会との事前協議
営農計画や、法人の設立事項などを検討したら、法人設立の手続に着手する前に農業委員会と事前協議を行います。
権利取得を希望する農地や、営農計画、法人の機関構成などを呈示して協議します。
申請書や添付書類の素案を作成して呈示できれば、協議もわかりやすくスムーズになります。
協議で不足や不備が判明したときは、計画や設立事項などを修正し、必要な書類を準備します。
この協議は多数回に亘ることがあるので、一定の時期までに営農開始することを希望する場合は、早めの準備が必要となります。
そうして協議の結果、許可の見通しがついたら、法人の設立手続に着手します。
法人設立手続は許可の見通しがついてから
すなわち、農地法許可が得られ、農地所有適格法人の要件が認められる見通しの構成の法人を設立するという形となります。
確かに形式的には手続の順番は、法人設立→農地法許可・適格法人審査申請ではあるのですが、事実上は、農地法許可・適格法人審査申請→法人設立の流れとなるといえます。
許可の見通しがつかないまま法人を設立してしまうと、費用をかけて法人を設立したのに農地の権利は取得できなかったということにもなりかねないので、事前協議は十分に行っておきます。
法人設立
農業委員会との協議で法人の構成について十分検討したら、法人の設立事項を確定させ、法人の設立手続に入ります。
必要書類を収集作成し、法務局に法人設立登記の申請を行います。
設立手続が完了すれば、農地所有適格法人の骨格ともいうべき部分が成立することとなります。
農地の売買・賃貸借契約の締結
法人設立の手続が完了したら、農地の権利提供者と売買契約や賃貸借契約を締結し、契約書も作成します。
農地の権利を取得するのは設立された法人であり、その権利取得について許可を受けるのも法人であるので、契約と許可申請は法人の設立後に行います。
なお、契約書については農業委員会で農地法許可用に作成した様式が用意されている場合があります。
この雛形は農地法許可の要件に沿うよう内容が定められているので、これを利用するのがスムーズとはいえますが、他面、当事者間の事情にまで配慮しているものではないので、必要があれば条項を追加したり変更したりします。
農地法許可・適格法人審査申請
契約書を作成したら、その写しの他必要書類を揃えて、農地の権利取得のための許可申請手続と、農地所有適格法人の適格審査の申請を行います。
実際の手続としては、権利取得の許可と適格法人の審査は一体として行われるので、別々に申請する必要はありません。
なお、農地法に関する各種申請の審査は月に1回となっています。
申請の締切日が月ごとに設けられているため、タイミングを逸すると1ヶ月の時間のロスとなることもあるので注意が必要です。
締切日より、概ね3週間ほどで許可が出ます。
農地法の許可が出ると、法人が農地の所有権ないし利用権を取得し、営農開始が可能となります。
また、これにより当該法人は農地所有適格法人となります。
農地について利用権を取得するに止める場合は、農業参入のための手続はここで完了となります。
農地の名義変更
農地の所有権を取得する場合、農地の所有名義を法人へ変更する登記申請を行います(所有権移転登記)。
この際、農地法の許可書が必要となります。
また、法人の役員が農地の権利を法人に提供した場合、利益相反取引となるため、売買を承認する旨の株主総会議事録等を作成し、登記申請書に添付する必要があります。
名義変更の登記が完了するのは、書類に不備がなければ、申請からおよそ1週間~10日程度です。
許可証について
なお、農地所有適格法人の許可証や認定証のようなものは現段階では発行されていません。
法人の登記事項証明書や農地法の許可証がその代わりとなります。
以降、農地を増やしていこうとする場合、これらを使用することになりますが、農地法の許可証については紛失しても再発行されないので無くさないように大事に保管してください。