個人農業の法人化の流れ
法人化のメリット、デメリット等を考慮し、法人化を決定したら、具体的な手続に入ります。
農地の権利状況の確認
農業法人設立にあたり、既に自分の田畑で農業を経営されている方は、当然農地の探索、確保は必要ありません。
ただ、長く農業を営んでいたような場合、農地を借りたり購入したりしたものの名義変更がなされていない、逆に、耕作していないが、所有名義の農地が存在するなど、権利状況が錯綜していることが、しばしばあります。
このような場合、そのままでは設立後の法人に農地の権利を引き継ぐことができないことがあります。
引き継ぐ農地に漏れがあると、後に改めて登記や農地法の許可申請が必要となるなど、余分の手間や費用が生じる恐れもあります。
農地の権利状況を確認し、必要があれば相続登記や変更登記を行っておきます。
引き継ぐ農地が明確になったら、農地所有適格法人の設立手続に入ります。
農地所有適格法人設立
農家の方が一般法人を設立してリース方式で農地を法人に貸す方法をとることはメリットが少ないため、通常は農地所有適格法人(農業生産法人)を設立することとなると思われます。
この農地所有適格法人の設立手続は、法人設立→行政庁(農業委員会)への農地所有適格法人の審査申請という流れとなります。
法人設立→行政庁への公益認定申請の流れをとる公益法人と手続が類似しますが、適格法人の審査は個別の農地の権利取得の許可申請の中で行われ、適格法人の審査のみを受けることはできない点で、やや変則的と言えます。
なお、実際の手続においては、法人設立の前に農業委員会と十分協議を行っておきます。
法人形態の決定
農地所有適格法人となりうる法人は、株式会社、合同会社、農事組合法人がありますが、個人農業の法人化の場合、株式会社か合同会社を選択することとなります。
いずれによるかはケースによりそれぞれですが、極めて大まかに言えば、取引先を増やし規模を拡大していくのであれば株式、家族経営で地域密着型の農業を営んでいくのであれば合同が選択肢ということができます。
設立事項の検討
法人形態が定まったら、定款の素案を作成し、株主・社員、役員となる人、機関構成、出資の割合などの設立事項を検討します。
これらの事項は農地所有適格法人の要件に適合するように定めていきます。
農地の権利取得方法の決定
設立後の法人に、農地の所有権を移転するか、貸し付けるかを決定します。
法人化後も個人として農地を取得したり借り受けたりしたい場合は、一定面積を残しておく方法をとることもできます。
農業委員会との協議
営農形態や法人形態、設立事項を検討したら、法人の設立手続に着手する前に農業委員会と事前協議をしておきます。
確かに農家の方で、農業に従事している家族全員が株主・社員にして役員となるようなケースでは、設立後の法人への農地の権利の引継ぎにつき不許可となる可能性は低いといえます。
ですが、万一にも費用をかけて法人は設立したが農地の権利は法人に引き継げなかったという事態を避けるため、法人の設立手続を始める前に、事前協議は行っておきます。
予定する法人形態やメンバー、引き継ぐ農地などを説明し、農地所有適格法人の要件を満たすかについて協議します。
法人化を機に新たな事業を追加する場合や、メンバーを増やすような場合は、この点についても十分協議しておきます。
そして、許可の見通しがついたら、法人の設立手続に入ります。
すなわち、農地法許可が得られ、農地所有適格法人の要件が認められる見通しの構成の法人を設立するという形となります。
確かに形式的には手続の順番は、法人設立→農地法許可・適格法人審査申請ではあるのですが、事実上は、農地法許可・適格法人審査申請→法人設立の流れとなるといえます。
法人設立
農業委員会との協議で法人の構成について十分検討したら、法人の設立事項を確定させ、法人の設立手続に入ります。
定款の作成
これまで検討した営農形態や法人形態などを盛り込んだ定款を作成します。
株式会社ではこの定款につき公証人の認証を受けます。
なお、定款に記載する法人の事業目的は設立後直ちに開始するものでなくても差し支えありません。
例えば、将来的に法人で栽培した野菜を出す食堂を経営することも考えている場合、設立の時点で事業目的として記載しておくことは問題ありません。
資本金の払込
出資者それぞれ、出資額を払い込みます。
株式会社の場合、この払い込みは定款の認証後に行います。
登記申請
設立事項決定書や役員の就任承諾書、資本金の払込証明書なの登記申請に必要な添付書類を作成し、必要な署名押印を行います。
添付書類が揃ったら、登記申請書を作成し、添付書類を添えて法務局に設立登記の申請を行います。
申請を行う法務局は、法人の所在地を管轄する法務局となります。
書類に不備がなければ、申請から1週間~10日程度で登記が完了します。
農地法許可・適格法人審査申請
法人の設立登記が完了したら、農地の名義人である個人と設立した法人の間で、売買契約あるいは賃貸借契約を締結します。
そして、農業委員会に、これらの権利移転あるいは利用権設定について農地法の許可と、農地所有適格法人の審査申請を行います。
農地の権利の取得と、適格法人の審査は一体として行われるため、それぞれを別個に申請する必要はありません。
農地法に関する各種申請の審査は月に1回となっています。
手続を急ぎたい場合、申請の締切日を予め確認して手続を進める必要があります。
農地法の許可が出ると、法人が農地の所有権ないし利用権を取得し、また、これにより当該法人は農地所有適格法人となります。
農地の名義変更
農地の所有権を設立後の法人に移す場合、許可が出た後に農地の所有名義を個人から法人へ変更する登記申請を行います(所有権移転登記)。
この際、農地法の許可書が必要となります。
このため、登記申請が行えるのは許可書を受け取った後となります。
また、農地の所有名義が法人の役員である場合、利益相反取引となるため、売買を承認する旨の株主総会議事録等を作成し、登記申請書に添付する必要があるので注意が必要です。
名義変更の登記が完了するのは、書類に不備がなければ、申請からおよそ1週間~10日程度です。
以上の手続の終了を以って、法人化の手続が完了します。
許可証について
なお、農地所有適格法人の許可証や認定証のようなものは現段階では発行されていません。
法人の登記事項証明書や農地法の許可証がその代わりとなります。
以降、農地を増やしていこうとする場合、これらを使用することになりますが、農地法の許可証については紛失しても再発行されないので無くさないように大事に保管してください。